« アルカリイオン水 | トップページへ | 食べられない時間帯 »

鳥の神経症、ハエのボケ

2005年07月06日

先日、『オーシャン・バード(海鳥)』という写真集を見ていたときに、鳥における「心理的葛藤」の話が載っていた。
  一例として出ていたのが、ウミネコ(カモメの仲間)の話である。
  ウミネコは、他の多くの海鳥と同様、孤島の岸壁などで集団繁殖する。その時期には何百羽の巣が所狭しと作られ、岩肌上に作られた巣は隣の巣と触れんばかりである。一応巣の周り数十センチの縄張りがあるものの、過密状態のためなかなか守られず、しばしばカップル同士の激しい喧嘩のもととなる。
 その際、自分のくちばしで相手の翼の先をくわえて引っ張るという形の攻撃をするのだが、それで相手の方が強い場合は逆にやっつけられてしまう。
 つまりは「縄張りを侵された!(怒り)」→攻撃行動となるのだが、その時の相手と自分の力の差を瞬時に判断して、相手の方が強そうなら我慢しなくてはならない。差が明らか場合はそれで良いが、判断がつかない場合、「怒った」ウミネコは「攻撃したい!でも大丈夫だろうか?自分の方が負けやしないだろうか?ああしかし、気になる、攻撃したい!でも怖い!」と「不安」になる。その結果どういう行動をとるかというと、近くの草を代わりに引っ張るのだそうである。「何もしないのはしゃくだ、でも直接この相手に行動を仕掛けるのは不安・・・」その結果、対象を置き換えての攻撃行動を取って「ストレス発散」しているらしい。
 これには苦笑してしまった。「目的を達成できない、無駄な行動」という意味では不適切行動、一方でそれによって自分の「鬱積感情をガス抜きする」というのは、まさにストレス対処行動の基本だからだ。
 人間も、怒りを直接相手に表明できない時、枕を殴ったりスポーツに熱中して感情を代理的に発散することがある。そういう行動の置き換えが、より高度で別の生産的な行為の原動力となればそれは昇華と呼ばれ、生活に支障をきたすような癖や固定化した不安になるとそれは神経症と呼ばれる。
 この他にも、群れの弱い個体が、強い固体が近寄ってきた時などに、本当は「お前なんか嫌いだ!」と突付きたいのだが、できないので、とっさに自分自身の羽づくろい行動をする(それに没頭するふりをし、くちばしがムズムズするのを別の行動で発散する)のだそうである。
 またあるとき、以下の記事を読んだ。
  「ハエも年を取るとボケる?! 東京都神経科学総合研究所を中心とする国際研究グループがショウジョウバエも年を取るとボケることを、実験で突き止め、4日付の米科学誌ニューロンに発表した。同研究所によると、老化による記憶力の低下が、ほ乳類以外で明らかになったのは初めて。
  記憶の中でも、7-8時間持続する中期記憶の機能が特に失われやすく、人間の脳の海馬に似た部分で、細胞内の情報伝達ルートに障害が起きているという。
  ハエの遺伝子の8割は人間と共通で、脳の構造や記憶のメカニズム、老化現象も似ている。同研究所の斉藤実主任研究員は「情報伝達ルートのどこに問題が起きるか分かれば、人間のぼけが治る薬を開発できるかもしれない」と話している。
  研究グループは、ハエの嫌いなにおいを2種類用意し、実験器具の左右の腕木に塗布。約100匹のハエに、あらかじめ左のにおいを電気ショック付きでかがせ、右の方はにおいだけをかがせた後、どちらの腕木に止まるか観察した。
  ハエの平均寿命は約40日だが、生後20日(人間の40歳代前半に相当)を過ぎたハエは、時間の経過とともに電気ショック付きのにおいの腕木に止まってしまう割合が急速に高まった。」

 この記事のポイントは2つある。1つは昆虫という「原始的な」動物においても痴呆症状が確認されたこと、2つ目は実はショウジョウバエは遺伝学的に見れば人間にとても近いということである。
  現代の科学者たちの大部分は「人間以外の動物には心や感情はない。一見感情に見えるものは、人間が自分の感じ方を動物に投影したもの、つまり擬人化にすぎない」という。(人の心の構成や発達について先進的な考えを記述してきたシュタイナーでさえもそういう意見なのは極めて残念なことである。)だが、無論人間とはニュアンスが大きく違うにしろ、動物たちに感情生活が「ない」といいきるのは無謀であり傲慢だと思う。人間同士でさえ、異なる人種、文化から来た者同士は、あんなにも理解困難ではないか?
  それから、こんなことも考える:冬眠をする動物は何種類もおり、それぞれの冬眠における代謝状況など、「ほとんど仮死」のものから「普段より少し深い眠り。その間に時々起きて食事したり、子供を産み授乳する」といったものまで、様々な段階がある。
  例えばシマリスは、秋までに地面の巣にありったけの食べ物を貯め込み、時々覚醒して少しずつ食べるが、それ以外は体温や呼吸、脈拍もかなり低下して非常に深い眠りに入る。日照時間が次第に短くなり、寒くなってきたある日、体内のあるホルモンが大量に分泌され、それが一両日中に急激になくなっていく。このホルモンがほぼ体内から消えた時、スイッチが入って冬眠に突入するのである。
  これと似たホルモンの増減は、実は人間にもある。女性における月経周期がそうである。
  排卵を機に、女性ホルモンの1つ、プロゲステロンの分泌量が増えると、女性は体温が上昇し、水分代謝が変わってむくみやすくなったり、だるくなったりする。中には本当に眠くて、暇さえあれば眠り込んでしまう人もいる。過食したくなったり、イライラしやすくなったりする場合もある。
  1週間でプロゲステロン量はピークに達し、その後急速に減少する。そしてある量以下になった時子宮内膜が剥がれ、月経となるのである。
  もちろんホルモンの種類も身体に対する割合も全く異なる話なので単純に比較はできないが、私が想像を膨らませてみるに、冬眠に入る際のシマリスは、単に眠いだけでなく、何らかの気分の変化もあるのではないかなあなどと思ったりする。例えばうつとか。なぜなら人間でも「季節性うつ病」というのもあって、これは特に日照時間の少ない、高緯度地方を中心に、「毎年、冬場に限って憂うつになってしまって・・・その時期になると意欲がなくなり、ものを食べたいとも思わず、日がなごろごろしている」という患者さんも、実際にいるからだ。
  行動の適応性から考えれば、元来、食べ物が乏しく、体温を奪われやすい冬場はできるだけエネルギー消費を抑えるのが良い、ということになり、これを具体的にすると「代謝を落としてあまり食べる必要をなくす、眠ってしまうことによりできるだけ活動=消費エネルギーを節約する」ということになる。
  もちろんうつは辛いし、病的レベルに達してしまった「うつ病」はしっかりと治療する必要がある。不安や痴呆症状も、できるだけ予防・軽減化したいものである。
  それでも、「神経症」「うつ」「呆け」の基礎的構成要素が自然の適応行動から発生してきたかもしれないと考える時、単純にそれらを「忌むもの、排除すべきもの」と反射的に考えるという以外の見方も、できるのかもしれない。
(2004年)

書いた人 浜野ゆり : 2005年07月06日 17:29

この記事へのコメント