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趣味は身を助く

2007年08月05日

「芸は身を助く」ということわざがありますが、いわゆる趣味も芸の1つとして、その人の役に大いに立つということがありますね。


以前担当していた患者さんで、それを実感したことがあります。
病歴の長い統合失調症の患者さんでしたが、発症時には既に社会人になっており、症状に悩まされている時期にも目立った問題行動は取らなかったため、(やや業務内容が制限されたものの)薬物療法を続けながら、ずっと同じ会社での勤務を続けておられました。


で、この方の趣味は短歌でした。
調子の良い時には日に100-200首もの歌を作り、どんどん投稿していました。
やがて大手新聞社の歌壇に作風の合う先生を見つけ、毎週1回の掲載日にはその患者さんの歌がちょくちょく載るようになり、数年後にはその歌壇への投稿者の「年間最優秀賞」を受賞されたのです。
お正月明けにその人の顔写真つきの記事を見た時、何かほのぼのと嬉しかった思い出があります。


多くの統合失調症の患者さんと同様、この方ももともとやや人見知りする方で決して社交的ではなく、仕事でも同僚と必要最小限の交流しか持とうとしないタイプです。
しかし受賞したのをきっかけに、地域の短歌研究会から声をかけられ、やがて歌会に出るようになったのです。


ただでさえ集団の中に入るのは苦手意識があるのに、初対面のメンバー数十人の中に入って行くことは、かなりのプレッシャーになったようでした。
しかしやはりそこは自分も好きな短歌のこと、思い切って参加したのだそうです。


初会合の後の外来では、彼は「歌を作るのは良いが、その後他の人たちの歌を自分なりに講評しなければならないのが緊張する。とっさに言葉が出てこなくて…次回は休もうかなあ」と言っておられたのですが、やがて定例会を楽しみに待つようになっていきました。


これはメンバーに次第に馴染んでいっただけでなく、趣味の性質も幸いしたようです。
つまり一般に「クリエーター」系の人たちは割と癖のある人々も多く、この患者さんの人見知りや口下手さもそれほど目立たなかったようなのです。
自分の素のままをグループに受け入れてもらえたことで、彼も不安なく他のメンバーと交流できるようになり、私の外来でも笑顔を見せることが増えました。


その後私は病院を退職して独立・開業し、彼は同じ病院の別のドクターが担当になっています。
しかし今でも、定期的に彼の名を歌壇に見つける度に「おお、**さんも元気でやっているようだなあ」と安心するのです。

書いた人 浜野ゆり : 2007年08月05日 06:09