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夢を見る=眠りが浅い??

2009年04月16日

クリニックの外来でよく患者さんが、「このごろ、よく夢を見るんです。だから眠りが良くない、浅いんだと思います」という話をされます。


特に「もともと自分はあまり夢を見ない」と思っている人に多く、「良質な眠りとはぐっすり熟睡するもので、従って夢などみないもの」という基準がそこにはあります。


しかし実際には、人間誰でも夢を見ています。
それも毎晩、一晩に3-5回は見ていることが、睡眠研究からわかっています。
ではなぜ「見ない」と思っている人がいるかというと、本人が忘れているのです。


人の脳波はおよそ90分サイクルで波長が変わり、波長がゆっくり(振動数が低い)時にはいわゆる深い眠りで、脳がしっかり休んでいる熟睡状態です。
このときには確かに、夢は見ません。


その後次第に波長が速く(振動数が高く)なり、この時に脳波と並んで眼球の動きが活発に観察されます。
この時期を急速眼球運動(Rapid Eye Movement = REM)期と呼び、この時に夢を見ています。


昔、あるテレビ番組で、「自分は夢を見ない」という人たち数人に終夜脳波測定器を装着し、REM期になる度に被験者を起こして夢の内容を話してもらう、というのがありましたが、普段夢を見ないという人も、直前まで見ていた夢はすらすらと報告することができていました。


確かにREM期には脳波上、睡眠が「浅い」ことになりますが、この間は逆に体は深くリラックスして休んでいますし、脳にとっても夢を見ることは何らかの情報整理機能として必要である事が示唆されています。


実際、統合失調症やアルコール依存症等において、幻覚妄想が強く出ている時期には睡眠ではREM期が乏しく、睡眠中の夢は非常に減っていることがわかっています。
逆にいうと、夢を見る機能が損なわれると脳はそれを覚醒状態でも投影してしまうということもでき、そうした事態を防ぐためにも夢を見るのは必要なことなのです。


では、なぜ普段「自分は夢を見ない」と思っている人が夢を覚えているようになるかというと、何かのきっかけで従来より自分の内面に注意が向くようになるからと考えられます。
そしてそのきっかけが、生活上のストレスフルな出来事やそれにまつわる心配事であることが多く、このため


心配事が増えて、あれこれ考え込むことが増える=自分の内面に意識が向きやすくなる→夢をみたことを覚えていることが増える、しかも心配事をしている時期なので不安な内容の夢が多い→夢を見るのは睡眠が悪くなったからだ


という考えに至ります。


しかし実際には、「嫌な内容の」夢は不快なものの、夢を見ること自体は脳が従来からやってきたことであり、問題はありません。

解消すべきは「夢を見ること」ではなく、内容が嫌なものにならないよう、覚醒している時から不安に対して、より上手に対処できるようになることです。
これには一般向けの心理療法の本を読んだり、カウンセリングを受けるなどして自分の考え方をより合理的で余計なプレッシャーを感じずに済むようなものに改善していくことが大切になります。


ところで、ここで2点ほど、補足があります。


【栄養不良と悪夢】

栄養、特にビタミンB群が非常に欠乏すると、寝つきが悪くなったり、眠りが浅くなったり、悪夢をしばしば見るといった症状が出ることが珍しくありません。
子供の場合には悪夢から夜鳴き、夜驚症(夜中に泣き叫ぶなど不穏になる)といった形で出ることが多いです。
こうした場合には、食生活を含めて栄養の摂取状況を見直す必要があります。


【「金縛り」との関係】

上述のようにREM睡眠期には、頭は比較的浅い眠り、体は深い眠りにあるため、何かのきっかけで更に頭の眠りが浅く覚醒に近くなると、「ふと目が覚めたら、体が異常に重く、動けない。金縛りだ!何かが乗り移ってきた!」と感じる人も多いようです。
しかし実際には自分の体の自律神経の作用で体が動きにくいので、心配する必要はありません。
またこうした時には、覚醒したような自覚でも微妙に意識もまだ眠りとの境界にあり、いわゆる「寝ぼけ」の意識状態なので、幻聴・幻視・幻触(実際にはない触覚、例えば何かが上にのしかかってきた、など)を感じることも珍しくありません。
こうした際には慌てず、眠気に任せて再度寝てしまうのが一番楽です。


また、一旦ストレスが解消して、また夢を忘れるようになっても、再度ストレスがかかると、結構その人特有の悪夢のパターンが出てきます。
ですからこれを自分の「ストレスサインの夢」とわかるようになると、頭では「大したストレスではない」と思っていても心身はかなり消耗しているのだな、と認識できるようになります。


たとえばある人は、某大学の学長にまでなった優秀な教授ですが、ストレスがかかると決まって「学生時代、期末テストの問題がさっぱりわからず、留年するのではと冷や汗をかいている夢」を見ます。
またある会社員は、ストレスがかかると「間違って目的地とは違う電車に乗ってしまい、帰り方がわからず途方にくれている夢」を見ます。


このような時に「ああ、自覚している以上に今自分は無理をしているんだな」と気づけると、意識してペースダウンしたり、仕事を周りと分担したり、週末にあえて予定を入れずゆっくり休む日を作る…といった生活の調整ができ、本格的に調子を崩すのを予防できるのです。

書いた人 浜野ゆり : 2009年04月16日 07:33