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不眠の行動療法(1)

2012年04月19日

「眠れない」というのは、実に多くの人が抱える悩みです。
そのために種々の睡眠薬も処方されますし、市販の鎮静剤や、飲酒に頼る人も大勢います。


私の外来にも多くの不眠の方が来られます。
中には当院に来られる前にかかっていた医療機関で、多量の睡眠薬や精神安定剤を既に処方され、それでも効きが悪くなって「もっと強い薬を出してほしい」と希望される人も。


しかし睡眠薬や精神安定剤の大部分はお酒と同様、多量に長期にのんでしまうと耐性と依存性がついてしまい、同量をのんでも効かなくなり、それでいて少しでも時間が経って薬物の血中濃度が下がってくると離脱(禁断)症状として不安、イライラ、冷や汗、頭痛などが出てきてしまいます。
もちろん、以前よりも頑固な不眠も。


中には多量の睡眠薬を常用していて、人間ドックの検査のため前夜1回内服を休止しただけで、離脱症状の痙攣発作を起こした例もあります。


また「酒は百薬の長」などといわれ、飲むと一時的に寝つきを良くしてくれますが、実際には眠りを浅くし、覚めた後にうつ状態になりやすくしてしまいます。


逆に十分な栄養、昼間の適度な運動は自律神経をリラックスさせ、眠りを改善します。


このように不眠にはいろいろなアプローチがありますが、忘れてはならないのはメンタル面のコントロールです。


「眠れない」ことにまつわる自分の考え方、価値観などを変えないままでは、
いくら強力な睡眠薬を使ったところで、効果はせいぜい一時的です。


例えば「8時間は眠らないと健康に悪い」「睡眠不足では明日の活動が辛くなる」など。
更には「まともに眠ることができない私は、なんてダメなんだ」「自分は眠るにも苦労するなんて、何て世の中は不公平なんだ。あっさり眠れる人もいるのに」などとまで考えてしまう人もおり、自分の思考で自分を鞭打ち、更に自分を追い詰めてしまいます。


これに対し、実際に睡眠不足だった翌日がどのくらい辛かったか、仕事や生活にどの程度支障が出たかなどの検証をしたり、また「個人によって本当に必要な睡眠時間は違う」「精神状態の持って行き方によって不眠の辛さも違う」などといった点を学習し、こうしたより合理的な思考を新たな価値観として身につけていくのが認知療法(認知行動療法)です。


しかしこうした認知行動療法的な治療法で効果を上げるには、専門の治療者に定期的に通って自己理解を深めていくことが必要であり、独習ではなかなか達成は難しいことが多いものです。


そこで、内面の価値観にまでは踏み込まないが、決められた治療行動を実行することを通して自然にある程度不眠への思い込みを軽減し、結果として実際に不眠が改善できる――そのような一般向けのワークブックが出ましたので、次回ご紹介します。

書いた人 浜野ゆり : 2012年04月19日 07:30