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(3)考え方で自分を追い込む人

2009年07月12日

「現在にとどまる」ことができるようになるためには、そのための新しいノウハウを身に付ける必要がありますが、それには次の2点が必須となります。


1.正しい知識を勉強する
2.正しいスキル(技術)を毎日練習し続ける(実習)


まず1.についてです。
私たちはなぜ、過去の嫌なことや将来の心配事について、繰り返し考えてしまうのでしょうか?
しかも、そうした「考えること」がこれまで何の解決にもつながっておらず、逆に考えれば考えるほど落ち込み・疲労・不安感等がひどくなるだけだということを体験的にわかっているはずなのに、なぜまた考えてしまうのでしょうか?


「マインドフルネス認知療法」という新たな、そして大変効果のあるうつ病用の心理療法を開発したオックスフォード大学のマーク・ウイリアムスらは、その理由を、人類の進化過程で身につけた危機対応反応の影響として説明しています。
具体的には、以下の通りです。


もともと野生の世界で暮らしていた人間は、身体に迫る危機、例えば肉食動物が近づいて来たと察知すると、その現状(危険状態)から望ましい状態(安全な状態)に変化させるために全身に「非常事態警報」を鳴り響かせ、解決策を必死で考え、行動に移します。
この例の場合だと、危機の原因を肉食動物の接近と認識→どのようにしたら逃れられるかを判断します。
そしてアドレナリンを多量に分泌して血圧と脈拍、呼吸数を上げ、「逃げる」か「戦う」ことに備えます。
神経が興奮しているので逃げるにしろ戦うにしろ、普段だったら無理な距離も走ったり飛んだりしますし、怪我をしてもその痛みや出血におかまいなしに行動を続けられるように身体がセットされています。
そして無事、敵から逃げおおせたり敵を倒せたら「非常事態警報」は解除され、平常の生活がまた始まります。


このように「危険の原因を特定する」→「非常事態モードで対処する」→「危機が去ったので平常モードに戻る」という反応は、これまでの長い人類の歴史でとても有効に作用してきました。
野生に住む生活では、危機は「外側」からやってくるものであり、かつあくまでも「一時的、短期」のものだったからです。


しかし、現代人を悩ませる「危機」の多くは、自分の心、つまり「内側」からやってくるものです。(※)
特に「過去の嫌な出来事」「将来の心配事」は、それを考えている限り永遠に続く「慢性ストレス」であり、われわれの祖先が外界への適応習慣として身に付けた上記のような「非常事態警報」は何の役にも経ちません。
しかし過去の適応習慣の余波として残っている「不快や不安を感じたらその原因を探し出し、対処し、除去しなくてはならない」という条件反射が残っているため、私たちは、解決策が見つけられない心理的問題に対しても、つい「原因探し」にきりなくふけってしまうのです。
これを「思考の反芻(※2) 」といいますが、この反芻を続けているとますます不安、落ち込み、怒りなどが強まり精神状態を悪化させます。


自分の「内面」から生じた「慢性(長時間にわたる)」ストレスに対しての正しい、つまり合理的な対処法とは、そうした過去や将来へのネガティブな思考や感情についてそれ以上考えるのを止め、目の前のするべきことに集中することです。


これが、今回の記事の冒頭に書いた、正しい対処法の知識です。
しかしもちろん、祖先の頃から身についてきた習慣は、そう簡単には変えられません。
正しい対処法を新たな自分の習慣にするためには、毎日の実践、実習が必要になります。
それはちょうど、新たにスポーツを学ぼうとするときには、テキストや授業で理論を学んだだけでは不十分で、毎日毎日「姿勢作り」「素振り」「走りこみ」などで、そのスポーツをこなすための感覚を身体で覚えなければならないのと同じです。


(※) 「嫌な出来事」は確かに外界で起こりますが、実際にそれをどのくらい強いストレスとして感じるかは、その出来事に愛する本人の「意味づけ(解釈)」によって決まります。
これはうつ病に高い有効性が証明されている「認知療法」という心理療法の大前提です。
「認知療法」について更に詳しく学びたい方は、問うブログ「お勧め本棚」をご参照ください。


(※)反芻(はんすう):草食動物が、いったん食べた餌を胃から口の中に戻し、再度噛み直すこと。植物は繊維が多くすぐには消化できないため草食動物は何段階もの消化機構を持つが、口の中での反芻もその一つである。

書いた人 浜野ゆり : 2009年07月12日 23:03